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最近思うこと(日記・エッセイ)

北京旅行記
2002.8.11-15
北京への4泊5日の旅。

日本語はもちろん、英語もほとんど使えない国への旅の不安と、歴史への興味、そして現在の中国がどうなっているのか、見たいものが交錯して、気の休まる間もない5日間だった。普通の北京旅行とはちょっと変わってる私の個人旅行を、一端だけここに書きます。

万里の長城の中でも北京市に最も近く訪れる人の多い「八達嶺長城」にて
 香港を除けば初めての中国旅行。5日間好天に恵まれ、むしろ暑さとの戦いでもあった。
 大きくて歴史の古い中国が、今どんな国なのか、そして歴史上の場所を自分の足で見て回る旅は、かなり気力と体力の要るもので、一人旅だからこそできる内容になる。こんなしんどい旅には誰もついてこない。
 しかし行ってみれば近い国だった。ちょうどこの週にヨーロッパでは豪雨災害のニュース。今回の旅行先を中国にして良かったと思う。これから再び中国に行く機会はおそらくないと思う。だから、精一杯見てきた。

 北京空港に着いたのは正午。両替を3万円、これはホテル代(先払い済)を除く5日間の全ての費用を少し多めに見込んだ額である。食事、交通費、入場料、土産など全部。結果的には2万円で終わった。
 普通の人は空港からタクシーでホテルへ行く。1800円以内だ。私は市内の民間航空会社のターミナルまでリムジンバスで16元(240円)、そこからホテルまで歩いては行けないのでタクシーに乗る(270円)。日本との物価の違いに戸惑うことが多い。市内のバスは1元(15円)、地下鉄は3元(45円)。ただ、外国人が来るような場所は何でも高い。史跡の入場料は数百円。安い食堂ではラーメンが50円前後なのに。
 もうひとつ、北京の印象は、ほこりっぽいこと。建設ラッシュで随所に見られる工事、土がほこりになって、道路全体に広がり、汚い。さらに、人々のマナーの悪さには驚いた。チケットを買うとき、列に並ばない。交通マナーなどかけらもない。車、自転車、歩行者が勝っ手気ままに行動している状態で、おそらく警察は交通法規についてはノータッチのようだ。これで交通事故が起きないのが不思議だが、滞在中に事故に出くわしたことはない。

 ホテルに着いて荷物を置き早速出かけた。主な観光は翌日以降にすることにして、まずは王府井の新しいショッピングセンターへ。日本のどこよりも立派だ。スーパーで牛乳やバナナ、スナック菓子などを買って外へ出ようとしたら夕立が降ってきたので雨宿り。スターバックスコーヒーの店があり、そこでコーヒーとパン。何だか妙な感じだが、スタバ、マクド、ケンタッキーなどは随所にあるのだ。

 雨が上がり、天安門の前まで行ってみる。日没とともに国旗を降納する儀式がある。あの民主化デモの天安門広場、毛沢東の巨大な額を飾っている天安門、人民大会堂など、スケールの大きいものが、全部私の目の前にある。全ては明日以降ゆっくり見ることにする。

 地下鉄を乗り継いでホテルへ。北京のホテルは全体的に日本と同じぐらいの値段なのだが、私のとったホテルは4泊で2万2千円。安い分だけ地下鉄から遠い。

 2日目は、いよいよ万里の長城へ行く。観光バスのツァーなら、日本人向け1万円、一般中国人向け750円となる。私の利用するのは列車で、往復15元(225円)。観光バスは高いし、時間に縛られるし、土産屋に連れて行かれるそうだし、どうしても一度汽車に乗ってみたかった。この驚異の価格差、これが大満足となる。何百人かの乗客の中に日本人は多分いなかったと思う。ガイドブックにも列車で行く方法はあまり書いていない。車掌とは筆談で切符を買い、帰りの列車の時間を切符の裏に書いてもらう。限りあるチャンスに情報を得るようにしないと、駅にダイヤを掲示しているわけでもないので、大変なことになる。列車内では同じボックスでいっしょになった家族連れと少し気持ちが通じたような気になる。
 八達嶺長城は一大観光地であり、北京から近いこともあって、中国の各地や世界からの観光客が来る。私も一生の間に一度見ておきたかった場所でもあり、ゆっくり時間をかけて歩いてみた。これも個人行動の良さで、気の向くままのペースで、6時間ぐらい滞在した。せっかく来た万里の長城だ。ツァーなら2時間滞在ぐらいとか、もったいない。往復4時間の列車と合わせて10時間の、いい旅だった。
 こうして、行動の能率は良くないが、この日は万里の長城を堪能し、車窓からの景色も見た。何年かに一度の海外旅行なのに、ここまでケチらなくてもとの思いもあるが、やはり、庶民の生活ベースに合わせないと本当の中国がわからないから、意識してケチに徹するのである。

 3日目、この日は市内のメインの名所を観光する。もちろん、観光バスではなく、電車・バス・徒歩で。
 ホテルから近い天壇公園へ。ここでは祈念殿という建物もあるが、公園の中で色んなグループが、太極拳、気功、剣術、歌、ダンスなど様々な練習を朝からやっている。次に普通のバスに乗る。バスは常に満員で、車掌から切符を買うのさえ大変だ。前門で下車。そこは地下鉄駅のあるターミナルだが、きょうはそこを基点に、北へ向かって歩いていく。
 
 まず一番南にある正陽門に登る。「登る」というのはどういうことかというと、ひとつひとつの門もかなり大きくて、入場料を払って中から登り、ベランダみたいなところに出ると、とてもいい眺めなのである。
 ここのすぐ北隣が毛主席記念堂。安置されている毛沢東の遺体を見ることができるので、ここの入場には2時間ぐらい並ばなくてはならないほどの人気スポット。並んでいるのはほとんど中国人だ。私はそこに並ぶのはやめて、せいぜい周りからその様子を眺めることにした。

 天安門広場の横にある人民大会堂を見学する。国会議事堂みたいなものだが、人民大会は一万人規模で行われるものなので、本会議場は大きな劇場の雰囲気だ。案内ガイドが解説してくれるが、全然わからない。中に入れたことだけでいい。入場には、手荷物を預けなければならず、ボディチェックもある。この建物もそうだが、何でもデカイ。人が小さく見えるのだ。

 その次が天安門広場。世界で最も広い広場と言われ、1949年に中華人民共和国建国の式典が行われた場所。その他、天安門がステージのようになり、広場全体で50万人収容の巨大なイベント会場なのである。1989年6月4日、学生や労働者が民主化を要求して占拠し戦車も出て発砲した「天安門事件」は我々の記憶にもあるところである。










 次は天安門へ。広場から幅の広い道路を横断するには地下道を通る。北京では横断地下道が随所にある。それでないと、横断なんか怖くてできない。
 天安門に登るのがまた厳重なチェックである。荷物を預けるのはもちろん、ボディチェックも念入りだ。上から見る天安門広場の壮大さに圧倒され、しばしゆっくりと滞在する。さっきの毛主席記念堂などは、かすんで見える。私にはガイドも何もないので、時間は自由なのだ。私のガイドは「地球の歩き方」。

 天安門の裏でビールを買い、座り込んで昼食にする。といっても、持ってきた「お〜いお茶」を飲みながらカロリーメイトを食べる。私が旅行に欠かさず持っていくものである。その他に、カゴメ野菜ジュース、梅干、カップ味噌汁を今回の旅行に持ってきた。道行く人を眺めながら、石畳に座りこんでの昼食は、さしづめパリのカフェでお茶している気分でもあり、これはこれでいい経験なのだ。北京のビール缶のプルトップは旧来の取れる栓だ。缶のコカコーラもそうだった。

 午門から入るときに入場料が要る。中国の元・明・清王朝の皇居で、最後の皇帝が「ラスト・エンペラー」の映画になった場所。全体を「故宮博物院」と言い、「紫禁城」とも言われている。「ラストエンペラー」はこの場所をそのまま使って撮影されたので、映画のシーンと重なり、わくわくする。

 太和門から太和殿を見たときに最高潮に達した。映画で即位式が行われた広場があり、その向こうに巨大な太和殿がある。人が小さい。私は門の日陰に座り、しばらく広場と太和殿をながめた。誰にもせかされず、ビールの酔いが回ってきたせいもあって、ここで一番多くの時間を過ごした。太和殿は、もうひとつ、今年見た映画「トゥーランドット」の舞台でもある。プッチーニのオペラ「トゥーランドット」は、王朝時代の中国をテーマにしたオペラ。中国での公演を、この太和殿をステージにして、屋外でやったのだが、その準備から本番までのドキュメンタリー映画だ。石の欄干も映画で見たそのままだ。
 太和殿の王座を見た。映画では金色に輝いていたが、現物はくすんでいる。映画では階段に照明を施していたが、本物にはそれはない。

 そこから先は、惰性のように、中和殿、保和殿と続く。
 面白いものを見つけた。故宮の建物の数々の一角には、休憩所やトイレなどもあるのだが、あるところに「星巴克珈琲」という表示があった。英語で STARBUCKS COFFEE とも書いてある。何百年の建物を使ってスタバのコーヒーとは驚いた。コーヒーの値段は市街地スタバの倍ぐらいだった。

 ひととおり北の端まで行ったあと、再び南へ戻って歩いた。きょうは故宮の観光で終わる予定なので、急ぐこともない。ゆっくりともう一度建物を見て歩く。午門から出て、オープンスペースで食事をとった。三種の料理とスープとご飯のセットで20元(300円)。まずいものばかりだったが、この旅行で初めての米の飯だ。
 
 地下鉄で建国門へ行き、スーパーで牛乳やヨーグルト、パンなどの買い物をした。前門から始発のバスに乗り、ホテルへ帰る。満員のバスだ。ホテルで荷物を置いて、また今度は歩いて行けるショッピングセンターへ。みやげ物もここなら安い。家族への土産が全部で1000円以内で収まる。日本で買えば1万円分ぐらいか。

 4日目の朝、まずは北京動物園へ。本場のパンダがたくさんいるところだ。男一人でパンダを見に行くのも絵にならないが、やはりここは外せな。バス停の表示で路線を調べ、間違いなく動物園に行けるバスに乗ったが、朝のラッシュでもあり、1時間もかかった。路線バスで1時間はしんどい。
 動物園の切符を買うのが大変。並んでないので、手を伸ばして窓口に差し出す。
 
 パンダは5頭ほど見られたが、どれも夏の暑さに元気がない。あまり手入れされていない屋外の緑の、わざわざ隅のところで寝そべっているのや、檻の中でむしゃむしゃと笹を食べているのなど。動物園全体の面積が広くて、大きな公園の所々に動物がいるという感じだ。

 きょうは妻の誕生日。朝、ホテルから電話をした。空港で買った100元(1500円)のテレホンカードが、毎日朝晩に自宅へ電話するのにちょうど良い。誕生日のプレゼントに、パンダのぬいぐるみを買った。北京動物園の売店で買ったことに意味がある。ここのパンダのぬいぐるみはかなりの種類がある。

 次なる目的地は「盧溝橋」(ろこうきょう)。1937年(昭和12年)に日中戦争勃発の場所。いわゆる「盧溝橋事件」の場所である。ここへ行くのは結構難しかった。タクシーなら簡単なのだが、私のポリシーが許さない。地下鉄とバスを乗り継いで、ようやくたどり着いた。800年以上の古い橋だが、日本と中国の悲しい歴史の場所でもあり、日本人が行ったら石を投げつけられるのではないかとも思った。

 バス停に着いたとき、後ろの席にいた年配の男性が私の肩をたたいて、ここで降りるのではないかと教えてくれた。この橋は現在史跡として保存されていて、自動車などは通れない。入場料を払って歩いて渡るのだ。バス停から橋まで、400メートルぐらい、堤防の道を歩きながら、昨日スーパーで買った青りんごをかじった。路線バスを使ってここへ来る人はいないようだ。日本人にも会わない。

 盧溝橋から少し離れたところに「中国人民抗日戦争記念館」がある。日本が犯した残酷な行動の数々を写真と説明で掲示している。中国の愛国教育の場となっているらしい。村山富一首相がここを訪れた時の写真もあった。南京大虐殺の写真や、「百人斬り」という殺人ゲームに中国の人々をつかった有様はまともに見られないものであった。

 5日目、日本へ帰る日である。この日も天気は晴れだが、すっきりと青空が見えるものではない。10時にはホテルを出発するので、ホテルに近い北京自然博物館にだけ行ってみた。世界各地に自然博物館はある。恐竜の骨格標本などがあるのだが、ここには、世界でも例を見ない、人体のホルマリン漬け標本が多数ある。子供たちのグループが恐竜の展示を見て歓声を上げている。最上階の3階に人体標本がある。ミイラではない、生身のそのままだ。全身標本が2体、内臓や経過月別の胎児、頭の断面、腰の断面など、よくもこれだけの標本を集めたものだ。その部屋には掃除をする若い女性が一人いるだけで、他に人がいなかった。私は足早に見て回り、その部屋を出てホテルへ戻る。

 北京の街を歩くのも最後だ。北京には立派なマンションも多数あるが、レンガ造りの平屋の家が市内に多く見られる。公衆便所が多い。自宅にトイレのない家が多いのだ。

 空港へ行くのに、荷物を持って普通のバスには乗れない。ホテルの玄関で、タクシーの運転手は120元(1800円)と言うが、私はそれを断り、民間航空のバスセンターまでタクシーで行ってもらうことにした。タクシーとリムジンバスを合わせて32元(480円)だ。きょうは8月15日、新聞売場の見出しを見ると、終戦記念日ではなくて、「日本降伏の日」のようなことが書かれていた。靖国神社という活字も見えた。
 リムジンバスの最前列に座ったので、景色をたっぷりと見ることができた。

 北京では2008年にオリンピックが開かれる。道路の広さ、さらに伸ばしている高速道路網、建設が進む大規模な公共施設などを見れば、確かに勢いの感じられる街である。しかし、交通マナーや街のホコリ、陰の住宅地、英語を話せる人がほとんどいない実態などを見ると、本当に大丈夫なんだろうかと思う。

 5日間の北京旅行。一日一箇所を基本に、あまり無理をしない旅行だったが、それだけ、観光も生活もじっくりと見ることができた。万歩計で毎日計った歩数は次のとおり。
    1日目(11日) 25400歩
    2日目(12日) 32500歩
    3日目(13日) 50000歩
    4日目(14日) 39800歩
    5日目(15日) 22000歩    行き帰りの日を除く中間の3日間は一日平均4万歩。
                         万歩計を購入してから、こんなに歩いたのは初めて。
                         「一日5万歩」は自己最高記録である。

 宿泊代4泊で22,400円を別にして、滞在中に使ったお金は、ちょうど2万円だった。残った中国元は、飛行機に乗る直前の銀行で日本円に戻した。

 日常からの脱出と、万里の長城・故宮・天壇の三つの世界遺産をこの目で見る今回の旅行。休みを与えてくれた会社に感謝したい。

 (完)
天安門広場にて
シャッターは通りがかりの人に押してもらった。どこでも気軽にシャッターを頼める。私も随分押した。万国共通の光景。