香港旅行記
2006.1.21-23
 私には2度目の香港旅行になる。前に行ったのは1999年9月。海外旅行では初めてのアジアだったので衝撃が大きかった。そして今回、再び香港へ行くことにした理由は、「近いから」というのが本音のところ。2泊3日の香港旅行。それは、3年ぶりの海外旅行、10年ぶりに夫婦でいく海外旅行となる。

 旅行記の製作は、いつも時間がかかる。今回ここに掲載するのは、3日間の中で観たこと、思ったことの一部を駆け足でたどることにする。


幸運な出発

 1月21日、東京はこの冬初めての積雪となる荒れた天気で、成田発着の多くの便が欠航になったらしい。当初、成田発着の便を取っていた私だが、妻と一緒に行くことになって、関空からの便にしていたから、全く雪の影響を受けなかった。金曜日の夜、私は東京から大阪へ移動し、深夜12時頃自宅に着いて、早朝の出発となったが、大阪は雪どころか全くの快晴になり、関空までの電車も飛行機も、順調そのもの。

 10時関西発、13時15分香港着。所要時間は4時間15分。日本と香港の時差は1時間。私の腕時計は電波時計なので、時間は日本時間のまま。デジタル表示のところを香港時間にした。

 前回来た時、開港直後の香港国際空港だった。今回は、とても慣れたところに来たような気がする。イミグレでは何も聞かれない。税関も何もない。

 そもそも私たちの荷物は軽い。飛行機に預けた荷物は、私の布製のスポーツバッグ一つだけ。 妻に事前に用意をしておいてもらったのは、ペットボトル500ccの「伊右衛門」6本、入浴剤のバブ2個、梅干少々。あとは自分の着るものだけ。2泊3日では、着替えもわずかで済む。

 香港ドルへの両替は、日本で行うのは最もレートが悪い。レートの良い順に、@香港市内の大手銀行で、A市内の両替所で、B香港の空港の両替所で、となる。空港にあるのは銀行ではなくて、両替商の業者なのだ。
 きょうは土曜日なので、市内に着く頃銀行は閉まっているから@はダメ。従って、先ずBで1万円だけ両替して市内までの交通費分を用意する。あとは市内に着いてからAの両替所へ行くことにする。

エアポート・エクスプレス(機場快線)

 今回はエアポートエクスプレスに乗ることにする。というのは、これも選択肢の一つであって、これが最も高額なルートであり、これの4分の1以下の安い方法がいくつかあるが、とりあえず妻と一緒だから、無難に楽な方法にしておく。

 さてここで、早速、香港では必須のオクトパスカードを購入する。「機場快線」(エアポートエクスプレス)の案内カウンターで、立っていた英語が堪能な若い女性に聞いて、普通のオクトパスカードを2枚購入した。普通のでないオクトパスカードとは、旅行者向けに、エアポートエクスプレスの片道または往復と3日間地下鉄乗り放題と、その他の交通機関に使える20ドル分が付いたもの。どっちが徳か検討の結果、私は普通の方買うことに決めていた。もう一枚、前回使ったカードを持ってきたが、これは予備に持っておくことにする。旅行者用のカードはクレジットでも買えるが、一般カードは現金でしか買えないので、私は一旦両替所へ1万円の両替をしに行ってから購入した。

 エアポートエクスプレスの乗り場は、国際線の(香港には国際線しかないが)到着ロビーのフロアにあり、そこには改札もない。荷物の車を押したまま、列車の入口まで行ける。出発のときは電車を降りたフロアが出発ロビーとなる。とても優れた構造の空港なのだ。改札がないといっても、目的地で改札を通るので、そこでチェックされる。

 エアポートエクスプレスは全て自由席。ガラガラで、十分に座れる。停車駅は、青衣、九龍、そして終点の香港。九龍で降りれば、ホテルの近くへ無料シャトルバスで行けるし、料金も安く済む。列車が九龍に着いてからも、ここで降りるかどうかまだ考えたが、結局遠回りだがわかりやすいルートを選んだ。終点まで行って、地下鉄に乗り換えるのがわかりやすい。終点まで23分。とても近い。
機場快線(エアポートエクスプレス)の車内

 香港駅で改札を出ると、オクトパスカードにチャージされている100ドルを、ちょうど使い切ることになる。次に地下鉄の改札に入ろうとしたらエラーになった。残高がゼロなのだ。券売機で50ドルずつチャージを追加した。これで当分大丈夫。オクトパスカードは、東京のSuicaカードよりも何年か早くできたICカード式の非接触型カード。地下鉄・バス・フェリー・トラムなど、ほとんどの乗り物で利用できる。香港の人はこれ1枚でいいので、みんな持っていると思う。券売機で切符を買う人の姿はきわめて少ない。

 香港から尖沙咀まで2駅。香港島から海底トンネルを通って中国大陸へ。というほど大げさなものではなく。さっき途中で下車しなかった九龍(カオルーン)の方へ戻るだけ。所要時間5分。宿泊するホテルはYMCA香港。有名なペニンシュラの隣。高級ホテルではないが、場所は一等地。値段はペニンシュラの何分の一か。この旅行滞在中、何度もホテルに寄って休憩したり荷物を置いたり、少し寒いといって上着を取りにきたりと、交通の便の良さをフルに活用した。ちなみにこのホテルの予約は、ヤフーだった。

 午後3時過ぎにチェックイン。フロントの人はとても手早い。予約のときに登録したクレジットカードを出して、ガシャっと紙にコピーすると、キーカードを手渡された。所要時間1分。海外のホテルで、こんなにスピーディーなチェックインは初めてだ。部屋は8階の海側。16階建てのホテルだから、まあまあのところ。

両替

 さあ、出かける。先ずは両替。重慶マンションの1階にある両替所へ。たくさんある店のどこへ行くのか、レート表示だけを見てもあてにならないと本で読んだから、ここは無難に、地球の歩き方ご推薦の店へ。場所がわからなくて案内所のボードを見ていたら、男性の案内係が、Can I help you?  ちょっといかがわしく感じたので、聞くのをためらったが、店の場所を聞くだけならいいかと判断して聞いてみた。目指す店は、すぐ眼の前にあった。

 ここで3万円を両替。ここのレートは、1万円が653HK$。香港ドルは1ドル=約15円と思っておけば良い。これで3日間の資金ができた。

 重慶マンションは、尖沙咀の中心部にある大きな古い雑居ビル。商店や安宿などまである。前回のときは3泊で4千円の安宿だったので、懐かしい気持ちがわいてくる。
 
重慶マンション

スター・フェリー
 
 海岸に出るには地下道を通る。車の交通量の多い大きな道路を横断するのは、たいがい地下道になる。香港文化中心(香港文化センター)の方へ。文化センターでは前回、オペラ「カルメン」を観た。ここの2階に映月楼というレストランがあって、飲茶をやっているので、早速寄ってみることに。ところが、貸切パーティーで断られた。仕方ない。海岸を散歩しながらスターフェリーの方へ向かった。学生らしいグループがいて、記念写真のシャッターを頼まれた。言葉は何語を話されますか?と英語で聞かれ、日本語と英語と答えると、なんのことはない、英語で、シャッターを押してほしいと言われた。
 眼の前には香港島の高層ビル群。2003年7月に完成したという88階建の国際金融センターがひと際目立つ。他のビルの倍ぐらいの高さだから、すっかり景色が変わった。

 懐かしのスターフェリーだ。前回はオクトパスが使えなかったが、今回はこれも改札にかざすだけ。前回、スターフェリーとトラム乗り放題の券を買っていて、用がなくてもスターフェリーに乗っていたものだ。1等席で1回2.2ドル(33円)だから、今回も気兼ねなくどんどん乗ることにする。乗船した際、すいぶん船が揺れていたので、妻が驚いていた。私もこんなに揺れているのは初めてだったが、走り出せば揺れなくなるよと言って安心させた。わずか7分の航行だし、外の風に当たるので、船酔いすることはない。緑と白の2トンカラー。前後両方向に進むことができる船だ。座席の背もたれを自分でバタンと反対にするのが面白い。かつて自分の生活の一部のようになじんだこの船が、いま再び私を乗せて走っている。席は、やはり左側。見慣れた景色だ。
中環
 
 フェリーを降りると中環(英語名:セントラル)。街を散策する。地下道を通って公会堂の前に出る。地下道の側面には携帯電話の広告が一面にあった。公会堂前の植え込みに、サルビア、ダリアなど、日本の夏の花が咲いている。ポインセチアも屋外で見るときれいだ。

 電車通りには二階建て電車「トラム」や二階建てバスがたくさん走っている。バスはスゴイ速度で走る。歩道は人であふれかえり、思うように歩けない。歩道が狭いという印象だ。路地に入ると、いろんな店があり、露店も次々と目を楽しませてくれる。店の玄関にみかんの木を飾ったものを置いているところが多い。正月の飾りのようだ。日本の門松みたいなものか。
 何か食べようかと興味を持って覗いてみるのも楽しい。どんな味がするんだろう、と恐る恐る見て考えるが、結局どこにも入らなかった。大家楽、大快活といったファミレスとファストフード店の中間のようなチェーン店も覗いて、掲示されているメニューだけ見てみた。

九龍
 
 フェリーでホテルへ戻る。こちらは広くは九龍(カオルーン)、狭い地名で言えば尖沙咀(チムシャァツィ)。上着を取りに一旦ホテルに戻る。天気予報は予めヤフーの世界の天気で調べていて、最低気温11度の予報だったが、風に当たると、やはり寒いので、日本から着てきたキルティングのジャケットを着る。

 夕食の場所をガイドブックで決めて、そこへ向かった。香港料理大賞の受賞常連店だそうで、地元の人に愛される名店、と書いてある。まだ6時前だったから、店は空いていて、大きな店だが、客は数組しか入っていない。私たちは、「るるぶ」のページを開いて見せて注文をした。飲み物はと聞かれたが、お茶を頼んだ。土瓶で持ってきてくれた。
 さて、注文してから料理が来るまでが長い。隣の部屋では、20人ぐらいがジャラジャラとマージャン大会をやっている。何も食べている様子はない。職場の仲間のような感じだ。若い女性も何人か混じっている。トイレはどこだろうかと妻が言った。私が先に行ってみることにした。男女のトイレのマークはどこでも共通だ。戻ってから妻に大体の場所を教えると、妻は一人で行ってきた。男、女と日本語で書いてあったからわかった、と妻は言う。でも、男も女も漢字だから、香港も日本も同じだろうと言って笑う。

 食事が済んで外へ出ると空は既に暗くなっている。尖沙咀の街を歩く。メインストリートになるネイザンロードは、昔ながらのネオンサインがひしめく。わき道に入り、店を見るだけで楽しい。回転寿司の店の前に行列があった。翌日この店に来ることになろうとは、このときは考えなかった。
シンフォニー・オブ・ライツ
 
 午後8時から、香港島と九龍のビルのイルミネーションやレーザー光線を使ったショーが行われる。この情報は香港の観光では最も重要なもの。知らない人はないと思う。
 海岸へ出ると、先ほど明るい時間に見た景色とは打って変わり、灯りのともったビルの美しい夜景がパノラマとなって広がる。88階建のビルも、剣のような中国銀行も、海にせり出した国際展示場も、全てが香港の夜景を構成している。20分前から海辺の手すりの前に陣取り、三脚を立てて、夜景の写真を撮りまくった。隣に西洋人のカップルがいて、いいカメラを持っているようだったが、三脚無しでうまく撮れるのだろうか。私のカメラの方をチラチラ見ている。

 イルミネーションとレーザー光線と音楽のショー「シンフォニ・オブ・ライツ」は、8時から13分間。とてもきれいだった。目に焼き付けておくしかない。写真ではうまく写らない。大勢の人が海岸に集まって見ている。子供連れも多い。日本人の声は周囲からは聞こえなかった。この時期、日本人の観光客は少ないのだと思う。香港のこの時期は、旧正月前だから、街の飾りもクリスマスから引き続きの正月版で、とても賑やかだ。
 
 ショーのあと、ビクトリアピークへ行って、今度は山の上からの夜景を見るのも良いかというところだが、昨夜は遅く今朝は早かったし、日本時間なら既に遅い時間なので、体力を考え、今日の観光はこれまでにして、ホテルへ戻った。
 ホテルのテレビではNHKのBS放送が見られるので、日本のニュースはリアルタイムにわかる。東京の豪雪で、成田空港が混乱とか。地元のテレビ番組も観る。ミス・インターナショナルかユニバースかの、香港代表を選ぶところを見た。そのニュースは翌朝の新聞で大きく出ていた。

二日目の朝
 
 朝食をどうするか、この日の成否を決める選択だった。ホテルの1階で食べるのもいい。しかし、本で見て早茶をやっている店を決め、油麻地へ地下鉄で行った。ところが目的の店が無い。何度も捜したが無い。やむを得ず、そのあたりにあった粥の店に入る。香港で朝食に粥は定番だから、朝開いている店は多い。この店は、メニューに写真が付いていて日本語も書いてある。とてもよくわかる。2種類の粥と、揚げパンにワンタンの皮を巻いたようなのを注文した。すぐにできてきた。朝食だから早いのだろう。2種類のうちの一つ、野菜の白粥が問題だった。生姜のきざんだのが入っていて、まさにショウガのお粥なのだ。もう一つはビータンの粥。こちらは癖のあるビータンに困ったが、これは底に沈んでいるので、上澄みを食べれば問題ない。何とか二人で融通して食べ、油の濃い揚げパンは半分残した。
 日曜の朝、まだ人出の少ない街を通り、空いている地下鉄に乗って帰る。ホテルの裏にあるスターバックスに入って、コーヒーとクロワッサンを食べる。コーヒーのミルクはどこかと店員にたずねたら、ポットに入っているのを教えてくれた。ミルクはフレッシュではなく牛乳だった。これは英国式だ。香港がイギリス領だったことから理解できる。
 香港で再認識した英国式は、車が左側通行(日本も同じ)、エスカレーターは右寄り(ロンドンの地下鉄のエスカレーターと同じ)、バスは二階建て、そしてコーヒーのミルクは牛乳。とりあえずここまで。
 香港の地下鉄は、車両の間にドアがない。通路の中央に、東京の山手線の一部にあるような柱があり、赤いラバーで覆われている。つり革は短い。イスがステンレスなのでやや冷たい。改札機は、オクトパス専用の方が多い。切符を買って乗る人は少ないのだ。ホームと線路が扉で仕切られている近代的な造りになっている。改札のところの電光掲示に、今日の天気と気温の予報が出ていた。

ビクトリア・ピークへ
 
 きょうの天気は曇り。いい景色は期待できないが、一応ビクトリア・ピークには登ることにする。ホテルを出て、スターフェリーで中環へ。そこのピークトラムへ行くバス停は前回のときと同じ場所にある。この時間に利用客は少ない。バス停で待っていると、女の子を連れた女性が「いま何時ですか」と英語で私に聞いた。私はとっさに時計を見せたが、「これは日本の時間。今9時44分」と答えた。デジタルの表示が役に立った。普段、英語を使う機会が全く無い私だが、昔、生活の中で英語に浸った経験が、ちょっとした会話の場面で直ぐに出てくるのが面白い。

 ピーク・トラムに乗るためには、山麓駅へ歩いて行っても良いが、私は歩いたことがない。前回のときは無料バスだったが、今は有料の路線になっている。二階建てのバスだ。運転手が来てドアを開けた。オクトパスで乗車し、二階に上がる。10時頃バスは出発した。前回は、夜景の時間だったので、バスも混んでいたし、道路の渋滞も激しくて、30分もかかった記憶がある。きょうはスイスイと、怖いほどのスピードで走り、アップダウンのある道を進んで駅に着いた。
 片道20ドル、往復30ドルだから、往復を買う。バスの路線もあるらしくて、片道にバスを使う人もあるからこのような料金設定になっているのだろう。
 ピーク・トラムは長い歴史のあるケーブルカーだ。急な坂を登っていく。景色の見える右側の席に座り、窓枠とビルの交錯する角度を体感する。

 頂上に着くと小雨が降りだした。わずかな雨なので傘をさすほどでもない。景色はかすんでいる。国際金融センターの上の方は時おり雲に紛れて見えなくなる。天気は旅の運だから仕方がない。
 ピークタワーは工事中だ。屋上を展望台にするのだそうだ。今度また来て見たくなる未練を残す。みやげ物を売っている露店のおじさんから、マグネットをまとめて値段交渉をして買った。昨夜見た夜景の写真のマグネットだ。

トラムに乗る
 
 ピークトラムで山を下りて、中環行きのバスに乗る。バスがいつ来るのかわからない状態だったので歩くことも考えたが、そのうち来たので乗った。ここでバスの中に日本の2人の女性が乗っていた。久しぶりに聞く日本語の会話だった。大阪弁だった。あとで考えると、昨日の東京の雪で、東京方面からの便は来なかったわけで、今この週末に来ている日本人は、相対的に関西の人が多いような気がした。時々聴こえる日本語の会話は、ほとんどが関西弁だった。

 バスは中環のフェリー埠頭行きだが、途中で停まったところが電車通りだったので、とっさにそこで降りた。トラムに乗ることにしたのだ。

 トラムは香港独特の乗り物。ロンドンの二階建てバスにあやかってつくられたもののようだ。土地の狭い香港には合理的な乗り物だ。電車は次々と来るのであせらず、空いているのを待って乗った。二階で街を見下ろす。上環で線路がカーブした所で下車し、上環の街を散策した。乾物屋の店が多い。ツバメの巣、ふかひれ等。

 国際金融センターの下まで歩く。ショッピングモールなど随所に正月の花や飾りが見られる。赤と黄色の奇抜な色の花が中心で、まさに華やかな雰囲気。旧正月まで1週間。
 中環からフェリーで尖沙咀へ。このとき初めて下層(2等)に乗ってみた。景色も椅子もほとんど1等と変わりはない。料金が10円ぐらい安い。尖沙咀に着いて、ここでこの旅行中最も高い買い物をした。スターフェリーの模型、300ドル(4500円)。ちょっと高いかなと思ったが、記念になるのでと妻も賛同し、購入。小さな模型だが箱は大きい。こういうときにホテルが近いからいい。荷物を置いて、昼食に出かける。
回転寿司
 
 昼食場所をどこにするか、二人の間では決まっていた。昨夜通りかかった回転寿司。あれだけ並んでいるのだから、間違いはない。中国料理やお粥に、少し飽きてきた感があるので、迷うことなく決まったのだ。
 店の前に係りの人が出てきて、順番を管理している。番号札をもらって待つ。言葉が通じないと呼び出されてもわからないかもしれないので、時おり何番まで行ったか覗いてみる。オーダー式のテーブル席なら直ぐに座れると言われたが断り、カウンターの席を待った。20分ぐらい待っただろうか、カウンター席に案内された。「いらっしゃいませ」と日本語で店員全員の声がかかる。お茶は持ってきてくれた。日本のお茶と同じ味だ。あとは回転寿司だから、自分で取って食べればいい。但し、どうもレールの上を回っている種類が少ないような気がする。メニューはあるので、注文すれば良い。注文の伝票のようなものと鉛筆が前に置いてある。そのうち、前で握っている板前さんたちの中に、どうも一人だけ日本語を話している人がいることに気づいた。私はその人に「オーダーは、言ってもいいんですか?」と日本語で聞いた。「あ、日本の人でしたか。いいですよ」と快く答えてくれた。我々が日本人に見えなかったんだ。
 そこで頼んだのが「タマゴ」。その人は日本から来ている店長らしく、出身は大阪で、30歳ぐらい。私たちはとても気楽に注文ができる状態になり、店長の奨めもあって、サーモンのはら、ひらめ等、美味しいのを出してもらった。はっきり言って、日本のどこの回転寿司屋よりもうまい。「日本人の客は来るんですか」と聞くと、たまに来られるが、いつも1時間以上の待ち時間なので、日本人はほとんど来られないとのこと。香港の人が最も好むのはサーモンだそうで、確かに、サーモンは次々と握ってレールに出しているが、私のところに回って来ることがないくらい売れ行きがいい。従業員はみんな地元の若い人だ。店長に聞くと、人の管理が結構大変だと言う。我が強くて、素直に言うことを聞かないのだとか。
 私たちは、満足して店を出た。香港に来て回転寿司を食べたとは、笑いのタネになるのかもしれないが、実は本音で満足した食事になったのだ。
 周りの客たちは、私たちのことをどう見たのだろう。店長と会話をして、いろいろ口頭でオーダーをしている日本人を、うさんくさく思ったか、それとも、日本人も来る寿司屋という評価をして納得したか。いずれにしても地元で人気のある寿司屋を体感した私たちもハッピーだった。

黄大仙
 
 ここにはどうしても行かなければならない理由がある。前回来た時に、このお寺に参拝した。願い事がかなったらもう一度来ること、というのがこのお寺のきまりなのだ。そのときの願い事は、一つはかなったが、まだかなっていないこともある。私が今回の旅行を香港にしたのは、このことがあったからでもある。
 参拝にはお供えと線香が要る。一般にお供えは果物か豚の丸焼き、アヒルの丸焼きなどだが、私はビクトリアピークのスーパーで買っておいたリンゴ2個を持っていくことにする。

 地下鉄で一度乗り換えて、黄大仙の駅へ。そこから直ぐに黄大仙のお寺がある。郊外の住宅地だから、周りは高層マンション。線香を売っているところに寄る。ここの線香は長さ30センチぐらいの太いもので、30本ぐらいの束で売っている。それに正月の特別のものなのか、飾りがついたものとセットで32ドルだと言われた。私が渋ると、線香だけなら10ドル。それでも地元の人に売る値段よりも高いのはわかっているが、150円ぐらいなら良しとして素直に払った。線香に火をつける場所に並ぶ。太い線香なのでなかなかつかない。境内一帯に線香の煙が充満している。ようやく火がついた線香を持って、妻と一緒に本殿でお参りをした。そして、境内の石畳に新聞を敷き、リンゴに線香を立て、膝をついて、報告とさらに願い事をした。これでまた香港に来なければならないことになるか。私は特に信仰をしているわけでもないが、どうもこのお寺に惹かれるものがあるのだ。地元では若い人も年寄りも、実に多くの人がお参りに来ている。
 境内を出たところで、童心に帰って「わたがし」を二人で食べた。1個8ドル(120円)だが、量が多くて食べきるのが大変だった。私たちが買って食べていると、次々と他の客が買いに来ていた。

旺角(モンコック)
 
 地下鉄で旺角へ行き、新しいショッピングセンター「ランガム・プレイス」へ行ってみた。ここは日本の西武デパートも入っている。買い物が目的ではなく、ここにある長いエスカレーターを見たかったのだ。確かに長い。日曜日の午後だから人出も多い。とりあえず写真に納めて、近くの繁華街へ行く。街に人が多い。どうなってるんだというぐらいの人出なのだ。どこを歩いても満員電車の中のような状態。女人街も歩いて、ああもう人ごみはたくさんと、地下鉄に乗り、尖沙咀で降りて九龍公園へ。既に夕暮れ近い公園にも多くの人がいた。石のベンチに座って休息。
日曜夕方の光景
 
 夕食は、またあっさりしたものがほしかった。歩いていて目に付いたイタリアンレストランに入り、スープとピザを食べた。家族連れの客が多い。日曜夜の家族での外食なんだ。私たちのいるコーナーに見える2家族と、私の後方にいる家族、全てが、夫婦と子供一人。それぞれ子供は小学校高学年ぐらいだから、やはり一人っ子なのだ。住宅事情が厳しい香港では、一人っ子が多いんだろうか。
 ホテルへ歩く道すがら、グッチなどのブランドの店の前に、長蛇の列がある。そうだ、今の季節、香港ではどこでもバーゲンなのだ。衣料品関係はもちろん、バーゲンをしていない店はないといえるぐらいだ。50%OFFの張り紙があちこちの店で踊っている。

オープン・トップ・バスのナイトツァー
 
 ネイザンロードのネオンサインをかすめて走るバスツァーがある。日本人向けのツァーだ。屋根のない二階バスだから、体験した人の感想をネットで読んだが、かなり迫力があって良さそうだ。これだけは事前に予約しておいた。私の海外旅行はいつも個人旅行で、しかもこのようなオプショナルツァーを利用するのは初めてのことになる。

 午後7時半。出発場所は私たちの泊まっているホテルのすぐ裏にあるカオルーンホテル。集合時間に遅れないよう早めに行ったが、ガイドは25分も遅れてきた。こういうこともあるとネットで感想を読んでいたので私は驚かない。ツァーガイドは50代の香港人の女性。日本語でガイドをする。

 バスが走ると、最低気温11度の香港とはいえ、それは寒い。
 湾岸を走り、ちょうどシンフォニー・オブ・ライツも見えた。遅れたからちょうど見られたのよ、とガイドは言っていた。ネイザンロードを走る間は最高の迫力だ。走行中は立たないでくださいと言われた。言われなくても怖くて立てない。
 バスは女人街の近くで停まり、30分間自由行動となる。先ほど歩いた女人街をもう少しゆっくりと散策する。屋台の食べ物のにおいが、どうも合わない。何であんな臭いのものを地元の人たちは好むのか理解できない。夜の人ごみは、スリの活躍の場になりそうなので十分に気をつけた。歩道に、雑誌の紙切れに石を乗せているのが並べてある。ガイドの話では、これは明日の病院の診察待ちの順番とりなのだそうだ。

 寒さに震えたバスツァーからホテルに帰り、さてこれからビクトリア・ピークへ登って夜景を見るかどうか、というところだが、それをするとホテルに戻るのは確実に12時になるし、きょうは曇っていて夜景もきれいではないようなので、迷わず本日の行動は終了にした。きょうは冷えたので、バブを入れての入浴が何よりうれしい。

 山の上から見る夜景が、100万ドルの夜景といわれるのだが、私は前回見た経験を踏まえても、下から見る夜景の方が好きだ。ということで納得しておく。

帰国の日
 
 日本へ帰る日、ホテルの1階で朝食をとった。アメリカ式の朝食と中国式のを食べた。中国式は、なかなかグッドで、お粥も白い何も入っていないものなので良かった。コンビニやスーパーで売っていなかったヨーグルトも食べることができた。

 部屋に戻ると、航空会社からの電話が入った。フライトの時間が2時間遅れだという。英語でまくし立てられたが、午後3時発の便が5時発になるということを確認した。ホテルのチェックアウトは正午。それから空港に向かって、ゆとりで過ごせばちょうど良い時間だ。

 午前中は、海岸を散歩し、フェリーで中環へ渡り、公園やビルの玄関、ロビーなどを渡り歩いた。どこでも黄色と赤の花やみかんの木が飾られている。

 オクトパスの残高が少なくなったので、妻の分にチャージを入れた。私は6年前のカードを試しに使ってみたところ、エラーになった。窓口で見せたら、何か書き換えをしてくれて、使えるようになった。確か有効期間は3年と何かで読んだ記憶があるのだが、こうして6年前のカードもまた使えるようにしてくれるので良かった。

帰りは経済的
 
 空港までの経路には、こだわりを持った。
 ホテルを出て、「フェリーで行こうか」と妻に言ったら、OKの返事。名残を惜しんでフェリーに乗って帰りたかったのだ。私たちの荷物は少ないので、スター・フェリーに乗っても違和感はない。中環からエアポートエクスプレスには乗らない。並行して走る地下鉄の東涌線に乗る。その終点東涌駅からバスで空港に入ることになる。電車は空いていて、所要時間もほとんど変わらない。ただ、バスに乗り換えることが不便なだけだ。これで費用はトータルで4分の1以下になる。地球の歩き方に書いてある方法そのまま。

 駅の改札の中にトイレがない。香港の地下鉄では駅にトイレがないのだ。前回これで大変苦労した経験がある。おなかを壊したときに、トイレがないのは大変なことだ。今回は万一に備え「ストッパー」を持参したので、安心だが。
 香港駅で、改札の中に入ってから、ここから30分ぐらいかかるので、トイレを探したが、やはりない。案内図を見て見つけたが、そこは改札の外だ。駅員と交渉して、一時出させてもらった。

 東涌駅は、マンションが立ち並ぶ郊外でもあり、駅構内の銀行に人が並んでいる国際線の玄関でもある。
 バスはここも、よくスピードをだす。しっかりどこかにつかまっていなければいけない。

 空港でオクトパスの払い戻しをして、食事と両替と買い物をしているうちに、ちょうど良い時間となった。

 香港から関空までの飛行時間は、機長のアナウンスで「2時間45分」。速いもんだ。ちょうど2時間遅れで関空に着き、妻は自宅へ、私は羽田へ飛んで、錦糸町に着いたのは深夜12時半だった。

 2泊3日の海外旅行。慌ただしいが、香港なら無理もなく可能な旅だ。私にとっては3年ぶりの貴重な旅行となった。